Dr.ナンバの時間 Vol.41 犬の指の間に赤いできもの。「趾間嚢胞」?
実は“嚢胞”ではないことがあります|Canine interdigital furunculosis(犬の趾間せつ腫症)
― 抗菌薬だけで治療しても、何度も再発することがあります ―
執筆・監修:難波 信一 獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長
この記事の要点
結論:犬の指の間にできる赤く腫れたしこりは、一般に「趾間嚢胞」と呼ばれることがありますが、実際には真の嚢胞ではなく、毛包が破裂して起こる深い炎症「趾間せつ腫症(interdigital furunculosis)」であることが少なくありません。
指の間に赤いしこり、腫れ、出血、膿、穴のような排膿路ができます。
痛みや違和感のため、足を舐めたり、びっこを引いたりすることがあります。
単なる表面の皮膚炎ではなく、毛包が破裂して皮膚の深いところまで炎症が及んでいることがあります。
アトピー性皮膚炎、足舐め、デモデックス、異物、足の形、肥満や荷重異常などが背景にあることがあります。
細菌感染を伴う深部膿皮症では、細胞診に加え、細菌培養・薬剤感受性試験を行って抗菌薬を選ぶことが重要です。
抗菌薬で一度良くなっても、背景にある原因を治療しなければ再発することがあります。
「できものを治す」だけではなく、なぜそこにできたのかを調べることが大切です。
犬の指の間に、赤いできものが……
ある日、ワンちゃんが前足をずっと舐めている。
見てみると、
指と指の間が赤い。
少し腫れている。
さらに数日すると、
丸い赤いできもののようになってきた。
触ると痛そう。
ときには血や膿のようなものが出る。
インターネットで調べると、
「趾間嚢胞」
という言葉が出てきます。
でも実は、
それ、本当の“嚢胞”ではないことがあります。
「趾間嚢胞」と「趾間せつ腫症」は同じもの?
一般に「趾間嚢胞」と呼ばれている病変の多くは、本当の意味での嚢胞ではありません。
獣医学的には、
犬の趾間せつ腫症
Canine interdigital furunculosis
と呼ばれる状態が含まれています。
「せつ腫」とは、
毛包が深いところで炎症を起こし、破裂した状態
です。
指の間の毛包が傷ついて破裂すると、毛やケラチンが皮膚の内部へ入り込みます。
本来、毛やケラチンは毛包の中に存在するものですが、皮膚の内部に漏れ出すと異物として認識されます。
すると炎症反応が起こり、
深い炎症、腫れ、膿、肉芽腫
などが形成されます。
ですからこれは単純に、
「皮膚の下に袋ができて、その中に液体がたまった」
という病気ではないことが多いのです。
犬の趾間せつ腫症では、どんな症状が出る?
代表的なのは、
指の間が赤くなる
丸いしこりができる
腫れる
血や膿が出る
穴のような排膿路ができる
足を舐め続ける
足を噛む
歩きにくそうにする
びっこを引く
触ると嫌がる
などです。
ひとつだけポツンとできることもあれば、
複数の指の間に繰り返しできる
こともあります。
慢性化すると、
皮膚が厚くなったり、
色素沈着したり、
毛が生えにくくなったり、
複数の排膿路ができたりすることもあります。
なぜ犬の指の間にこんな病変ができるの?
原因はひとつではありません。
ここが、この病気をややこしくしているところです。
原因① アトピー性皮膚炎やアレルギー
繰り返す趾間せつ腫症では、アレルギー性皮膚疾患が背景にあることがあります。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどで足が痒くなる。
↓
足を舐める。
↓
皮膚が炎症を起こして腫れる。
↓
歩くたびに毛包へ力がかかる。
↓
毛包が傷つき、毛が皮膚の内部へ入り込む。
↓
深い炎症や感染が起きる。
こうした悪循環です。
ですから、
「足を舐めるからできものができる」だけではなく、
「なぜ足を舐めているのか」
まで考えなければなりません。
原因② 毛そのものが異物になる
短く硬い毛を持つワンちゃんでは、
歩くときに指の間の毛が皮膚の中へ押し込まれることがあります。
折れた毛が皮膚の中に入り込むと、
毛そのものに対する異物反応
が起こります。
これが炎症を長引かせる理由のひとつです。
つまり細菌だけを退治しても、
皮膚の中に入り込んだ毛が炎症を起こし続けている
と、なかなか治らなかったり、再発したりします。
原因③ 足の形や体重のかかり方
足の形や体重のかかり方も関係します。
正常では体重の多くを肉球で受け止めます。
ところが、
指の間が広い
肉球の形が変形している
肥満している
歩き方や荷重に問題がある
などの理由で、
本来は体重を支える場所ではない「毛の生えた皮膚」に負担がかかる
ことがあります。
すると歩くたびに毛包へ機械的な刺激が加わります。
短く硬い毛を持つ犬種では、特に問題になることがあります。
原因④ デモデックス
ニキビダニ(Demodex)が趾間病変の原因になることがあります。
特に、
繰り返す
なかなか治らない
複数の足に病変がある
場合には、一度は考えておきたい原因です。
そのため必要に応じて、
深部皮膚掻爬検査や抜毛検査
を行います。
現在のイソオキサゾリン系ノミ・マダニ駆除薬には、Demodexに高い効果を示す薬剤があります。
ただし、
「予防薬を飲んでいるから、デモデックスは絶対にない」
と決めつけるのではなく、病変の形や経過を見ながら必要な検査を考えることが大切です。
原因⑤ 草の種やトゲなどの異物
病変が、
ひとつの指の間だけに突然できた
場合には、少し考え方を変えます。
例えば、
草の種
トゲ
木片
その他の異物
が皮膚に入り込んでいることがあります。
ひとつだけ治らない病変では、
異物だけでなく、
深在性真菌症
腫瘍
なども鑑別に入ります。
なぜ何度も再発するの?
趾間せつ腫症の難しいところは、
「一度治ったように見えて、またできる」
ことです。
再発する理由として、
アトピー性皮膚炎などが残っている
足舐めが続いている
デモデックスがいる
毛の異物反応が続いている
足の形や体重負荷が変わっていない
細菌感染が十分に治療されていない
抗菌薬が原因菌に適していない
などがあります。
つまり、
できものそのものは「結果」で、原因が別にある
ことが多いのです。
どうやって診断するの?
診断では、病変を見ただけで終わりません。
必要に応じて、次のような検査を行います。
細胞診
病変部から材料を採取し、
好中球
マクロファージ
細菌
酵母
などがないか確認します。
毛の検査
毛が皮膚の中へ入り込み、異物反応を起こしていないか確認することがあります。
深部皮膚掻爬・抜毛検査
Demodexなどを調べます。
細菌培養・薬剤感受性試験
深い細菌感染が疑われる場合には非常に重要です。
特に、
再発している
過去に何度も抗菌薬を使用している
深い膿瘍や排膿路がある
抗菌薬を飲んでも良くならない
といった場合には、
「次は別の抗菌薬を試してみよう」
だけで進めるのではなく、
原因菌を培養し、どの抗菌薬が有効なのかを調べる
ことが重要です。
生検
治療しても改善しない場合や、
腫瘍
深在性真菌症
真の毛包嚢胞
などが疑われる場合には、生検を行うことがあります。
抗菌薬を飲めば治る?
細菌感染を伴う深部膿皮症では、抗菌薬が必要になることがあります。
2025年のISCAID犬膿皮症ガイドラインでは、
深部膿皮症では細菌培養・薬剤感受性試験に基づいて全身性抗菌薬を選択する
ことが推奨されています。
また、
局所の抗菌・消毒治療を併用する
ことも重要です。
ここで大切なのは、
抗菌薬を飲ませれば、この病気そのものがすべて解決するとは限らない
ということです。
アトピー。
足舐め。
毛の異物反応。
肥満。
足の構造。
こうした背景が残っていれば、
抗菌薬で細菌が減って一度良くなっても、また再発することがあります。
抗菌薬は長く飲まないといけない?
趾間せつ腫症は皮膚の深いところまで炎症が及ぶため、
表面の軽い膿皮症より治療に時間がかかることがあります。
ただし現在は、
「必ず○週間飲めばいい」
と期間だけで決める考え方ではありません。
2025年のISCAIDガイドラインでは、深部膿皮症では全身性抗菌薬を開始したあと、
およそ3週間で再診して治療反応を確認し、その後の治療を判断する
ことが推奨されています。
病変の改善を確認しながら、治療期間を決めていきます。
自宅で潰したり、膿を出したりしていい?
おすすめしません。
見た目がニキビのようなので、
「潰したら治りそう」
と思うかもしれません。
でも実際には、皮膚の深いところで炎症が起きています。
無理に潰すと、
痛み
出血
炎症の悪化
二次感染
につながる可能性があります。
さらに、表面から膿が出ても、
皮膚の内部にある毛や、炎症を起こしている原因まで取り除けたわけではありません。
繰り返す病変ほど、きちんと原因を調べる方が近道です。
足を舐めさせない方がいい?
過剰な足舐めは炎症を悪化させることがあります。
そのため治療中には、
エリザベスカラー
足を保護する工夫
痒みそのものの治療
などが必要になることがあります。
ただし、
「舐めるからカラーをする」
だけでは不十分です。
なぜ舐めているのか
を考える必要があります。
痒いのか。
痛いのか。
アトピーなのか。
感染しているのか。
そこを治療しなければ、カラーを外したあとに再び舐め始めることがあります。
痒み止めだけでは治らない?
背景にアトピー性皮膚炎がある場合、痒みをコントロールすることは非常に重要です。
しかし、すでに深い細菌感染や異物反応が起きている場合には、
痒み止めだけでは十分ではありません。
反対に、
感染だけを治療して痒みを放置しても、
再び舐めて炎症を繰り返すことがあります。
つまり、
感染と、その背景にある病気の両方を見る
必要があります。
どんなワンちゃんで注意する?
どんな犬にも起こり得ますが、
特に、
短く硬い毛を持つ
足先が広い
肥満している
アトピー性皮膚炎がある
足をよく舐める
過去にも同じ病変を繰り返している
といったワンちゃんでは注意します。
犬種だけで決まる病気ではありません。
体型、足の構造、皮膚病、生活環境
を一緒に見る必要があります。
Dr.難波から
趾間の赤いできもの。
診察室では、本当によく見ます。
「趾間嚢胞ですか?」
と聞かれることもあります。
でも、これを単なる“できもの”として見ると、
治療がうまくいかないことがあります。
抗菌薬を飲む。
良くなる。
薬を止める。
またできる。
別の抗菌薬を飲む。
また良くなる。
そして、また再発する。
そんなことがあります。
そのとき私は、
「このできものを何で治すか」より、
「なぜ、この場所に何度もできるのか」
を考えます。
アトピーなのか。
足を舐めているのか。
デモデックスなのか。
異物なのか。
毛が皮膚の中へ入り込んでいるのか。
足の形なのか。
体重なのか。
そして細菌感染があるなら、
どんな菌がいるのか。
どの抗菌薬が本当に効くのか。
趾間せつ腫症は、“抗菌薬を選ぶ病気”というより、“再発する理由を探す病気”だと思っています。
赤いしこりだけを見ない。
足全体を見る。
そのワンちゃんの皮膚全体を見る。
そして背景を見る。
それが、繰り返す趾間病変を診るときに大切だと思います。
よくある質問
犬の指の間に赤いできものがあります。何ですか?
趾間せつ腫症(interdigital furunculosis)の可能性があります。
ただし、異物、デモデックス、腫瘍などでも似た病変ができるため、診察が必要です。
趾間嚢胞と趾間せつ腫症は同じですか?
一般に「趾間嚢胞」と呼ばれる病変の多くは、真の嚢胞ではなく、毛包破裂に伴う趾間せつ腫症です。
ただし、真の毛包嚢胞が存在することもあります。
犬が指の間をずっと舐めています。アレルギーですか?
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーは重要な原因ですが、それだけではありません。
細菌感染、デモデックス、異物、足の構造なども考えます。
抗菌薬を飲んでも繰り返すのはなぜ?
感染だけでなく、アレルギー、毛の異物反応、足の構造、デモデックスなど、背景にある原因が残っている可能性があります。
再発例では、細菌培養・薬剤感受性試験や背景疾患の評価が重要です。
趾間せつ腫症は痛いですか?
痛みを伴うことがあります。
足を舐めるだけでなく、びっこを引く、足を触られるのを嫌がるワンちゃんもいます。
家でできものを潰してもいいですか?
おすすめしません。
皮膚の深いところで炎症や感染が起きていることがあり、悪化させる可能性があります。
治るまでどれくらいかかりますか?
深い炎症のため、数週間以上の治療が必要になることがあります。
治療期間を最初から固定するのではなく、再診で病変の改善を確認しながら決めます。
まとめ
犬の指の間にできる赤いしこりは、単純な「嚢胞」ではないことがあります。
趾間せつ腫症では、
毛包の破裂
毛に対する異物反応
深い細菌感染
アトピー性皮膚炎
足舐め
デモデックス
異物
足の構造
体重や荷重
などが複雑に関係します。
だから、
できものに抗菌薬を使うだけで終わらせず、なぜそこにできたのかを考える。
再発例では特に、
「何を塗るか、何を飲むか」より、「なぜ繰り返すのか」
を見つけることが大切です。
参考文献
Loeffler A, et al. Antimicrobial use guidelines for canine pyoderma by the International Society for Companion Animal Infectious Diseases (ISCAID). Vet Dermatol. 2025;36(3):234–282. doi:10.1111/vde.13342.
Moriello KA. Interdigital Furunculosis in Dogs. Merck Veterinary Manual. Updated June 2024.
Nuttall T. Chronic pododermatitis and interdigital furunculosis in dogs. Vet Rec. 2019;184:354–361.
Mueller RS, Rosenkrantz W, Bensignor E, et al. Diagnosis and treatment of demodicosis in dogs and cats: Clinical consensus guidelines of the World Association for Veterinary Dermatology. Vet Dermatol. 2020;31(1):4-e2. doi:10.1111/vde.12806.
執筆・監修
難波 信一
獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長
初回公開:2026年10月7日
※本記事は、犬の趾間せつ腫症について、ISCAIDガイドラインおよび獣医皮膚科学文献をもとに一般の飼い主さん向けに解説しています。指の間のしこりには、異物、感染症、寄生虫、腫瘍などさまざまな原因があります。自己判断で潰したり薬を使用したりせず、繰り返す場合には動物病院でご相談ください。
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