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Dr. ナンバの時間 Vol. 36 猫の慢性腎臓病、腎臓食を食べないとダメ?(2026年9月3日に公開されたガイドラインより)

2026/9/6

Dr. ナンバの時間 Vol. 36 猫の慢性腎臓病、腎臓食を食べないとダメ?(2026年9月3日に公開されたガイドラインより)

執筆・監修:難波 信一 獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長

2026年の新しいガイドラインから考える、これからの猫の腎臓病治療

「腎臓の数値が少し高いと言われました」

「腎臓病用のフードに変えたけれど、全然食べてくれません」

「腎臓が悪いから、好きなものはもう食べさせない方がいいのでしょうか?」

猫の慢性腎臓病(CKD)と診断された飼い主さんから、こうした相談を受けることは少なくありません。

猫の慢性腎臓病は、とても身近な病気です。特に高齢の猫では多くみられますが、初期にはほとんど症状がないこともあります。

2026年、International Cat Care(iCatCare)から、猫の慢性腎臓病について新しい国際的なガイドラインが発表されました。

そこには、これまでの腎臓病診療をさらに一歩進めた、大切な考え方が書かれています。

まず、結論からお話ししましょう。

腎臓病の治療で大切なのは、腎臓の数値だけを良くすることではありません。

ちゃんと食べること。痩せないこと。筋肉を落とさないこと。そして、毎日を気分よく暮らすこと。

これらも腎臓を守ることと同じくらい大切です。


猫の腎臓病は「数値が高くなってから」始まる病気ではありません

慢性腎臓病というと、

「血液検査でクレアチニンが高くなったら腎臓病」

と思われがちです。

ところが実際には、血液検査の数値がまだ正常範囲でも、腎臓の働きが少しずつ低下していることがあります。

2026年のガイドラインでは、血液検査の「正常・異常」だけで判断するのではなく、その猫自身の過去の検査値から、どう変化しているかを見ることが強調されています。

例えばクレアチニンがまだ基準範囲内でも、過去の値より25~30%以上上昇している場合には注意が必要です。

尿を濃くする能力の低下も、腎臓病の早い段階から現れることがあります。

つまり、

「正常範囲だから大丈夫」ではなく、「去年と比べてどうなのか」が大切なのです。


何歳から腎臓の検査をした方がいいの?

新しいガイドラインでは、7歳以上の猫では定期的な健康診断を行うことがすすめられています。

7~10歳では年1回、10歳を超えた猫では、できれば年2回程度の健康チェックが推奨されています。

血液検査だけでなく、体重、尿検査、血圧、必要に応じて超音波検査などを組み合わせることで、早い段階の変化を見つけやすくなります。

特に体重はとても重要です。

慢性腎臓病の猫では、診断される何年も前から少しずつ体重が減っていることがあります。

「年だから痩せてきたのかな」

で済ませず、以前より体重や筋肉が減ってきたら、一度検査をしてみることをおすすめします。


腎臓病になったら、タンパク質を減らせばいいの?

ここは、ぜひ知っておいていただきたいところです。

昔から、

「腎臓が悪い=低タンパク食」

というイメージがあります。

しかし現在の猫の慢性腎臓病の栄養管理では、単純にタンパク質を減らせばよい、という考え方ではありません。

2026年のガイドラインで特に重視されているのは、リンの摂取量を適切に抑えることです。

リンが体内にたまりすぎると、腎臓病の進行に関係するさまざまな変化が起こります。

腎臓病用の療法食には、一般のキャットフードよりリンを少なくする工夫がされており、こうした食事には腎臓病の進行を遅らせ、生存期間を延ばす効果が確認されています。


腎臓病用のフードを食べてくれない場合はどうする?

これも、とても多い相談です。

そして私は、以前から飼い主さんにお話ししていることがあります。

腎臓を守るために、猫を痩せさせてはいけません。

どんなに腎臓に良いフードでも、猫が食べなければ意味がありません。

食事量が減って、

「体重が落ちる」

「筋肉が減る」

「元気がなくなる」

のであれば、本末転倒です。

新しいガイドラインでも、十分なカロリーを摂取し、体重と筋肉量を保つことを優先する考え方が明確に示されています。

食べる量が少ない猫では、必要に応じて、よりタンパク質を含む食事を選ぶこともあります。

そして、腎臓病用療法食を100%食べられなくても、食事全体の半分以上が腎臓病用療法食になれば、生存期間に良い影響が期待できるという研究も紹介されています。

ですから、

「療法食しか食べさせてはいけない」

と考えすぎないでください。

食べられることが第一。

そのうえで、できる範囲で腎臓にやさしい食事にしていく。

私はこの考え方が大切だと思っています。


血液中のリンが正常なら安心なの?

ここにも最近の変化があります。

腎臓病の初期では、血液中のリンの値がまだ正常でも、体の中ではすでにリンのバランスを保つために無理をしていることがあります。

その変化をより早く捉える検査のひとつがFGF23です。

少し難しい名前ですが、

「体の中でリンを何とか排泄しようとしているサイン」

と考えていただくと分かりやすいでしょう。

2026年のガイドラインでは、血液中のリンがまだ高くなくてもFGF23が上昇している猫では、食事中のリンをさらに見直すことが提案されています。

ただし、すべての猫に必要な検査というわけではありません。

腎臓病のステージや血液中のリン濃度などを見ながら、必要に応じて利用する検査です。


腎臓病用のフードにも注意点があります

「腎臓食なら、どれでも同じ」

ではありません。

リンを制限した食事を続けている猫の中には、血液中のカルシウムが高くなる猫がいることが分かってきました。

2026年のガイドラインでは、CKD猫の約20%ですでに診断時にイオン化カルシウムの上昇が認められ、その後に上昇する猫もいるとされています。

そのため、腎臓病ではリンだけでなく、カルシウムとのバランスも見ることが大切になってきています。

つまり、

「リンは低ければ低いほどいい」

という単純な話でもないのです。


腎臓病の猫には毎日点滴が必要なの?

必ずしも必要ではありません。

慢性腎臓病になると、尿を濃くする力が低下するため、水分を失いやすくなります。

しかし、新しいガイドラインでも、すべてのCKD猫に皮下点滴を行うことはすすめられていません。

まずは、

ウェットフードを利用する、水飲み場を増やす、飲みやすい器を用意する、食事に水分を加えるなど、猫が自分から水分をとれる工夫を行います。

それでも脱水が続く場合には、自宅での皮下点滴が役立つことがあります。

大切なのは、

「腎臓病だから点滴」ではなく、その猫に本当に必要かどうか

で判断することです。


食欲がないのも「腎臓病だから仕方ない」?

仕方なくありません。

腎臓病が進行すると、吐き気や食欲低下が起こることがあります。

さらに、

脱水、便秘、低カリウム血症、貧血などによっても食欲が落ちます。

新しいガイドラインでは、こうした症状を積極的に治療し、猫が食べられる状態を保つことが重視されています。

吐き気を抑える薬や食欲を改善する薬もあります。

特に進行した慢性腎臓病では、

腎臓病そのものの進行を少しでも遅くすることより、食欲や吐き気、脱水などを改善して、その猫が楽に暮らせることを優先する

という考え方も大切です。


便秘も腎臓病と関係があります

意外かもしれませんが、慢性腎臓病の猫では便秘も大きな問題になります。

腎臓病による慢性的な脱水や低カリウム血症、関節痛などによって、便が硬くなったり、排便回数が減ったりします。

便秘すると気持ちが悪くなり、さらに食欲が落ちることもあります。

「ウンチが何日に一度出ているか」

「以前より硬くなっていないか」

も、実は腎臓病の猫では大切な観察ポイントです。


腎臓病の猫に痛み止めは使えない?

これも昔からよくある誤解です。

高齢の猫では、腎臓病と同時に関節炎や歯の病気を持っていることが珍しくありません。

ところが、

「腎臓が悪いから痛み止めが使えない」

と考えて、痛みを我慢させてしまうことがあります。

2026年のガイドラインでは、CKDがあるという理由だけで鎮痛治療を避けるべきではないとされています。

腎臓の状態が安定していれば、薬の種類や量を慎重に選びながら痛みの治療を行うことができます。

同じことは麻酔にも言えます。

必要な歯科治療や手術を、

「腎臓病だから麻酔できません」

と最初から諦める必要はありません。

脱水や血圧、腎臓への血流を十分に管理しながら麻酔を行う、という考え方が現在の基本です。


尿から細菌が出たら抗菌薬が必要?

必ずしも必要ではありません。

慢性腎臓病の猫では、尿培養をすると細菌が見つかることがあります。

しかし、排尿時の痛み、頻尿、血尿、発熱などの症状がなく、腎盂腎炎も疑われない場合には、細菌が見つかっただけで抗菌薬を使う必要はないとされています。

抗菌薬は必要なときにきちんと使い、必要でないときには使わない。

これも、これからの獣医療では大切な考え方です。


慢性腎臓病は「何期か」だけで決まらない

猫の慢性腎臓病では、IRISという分類を使ってステージを決めます。

もちろんステージは大切です。

しかし、それ以上に大切なのが、

「その猫の腎臓病が、どのくらいの速さで進んでいるか」

です。

同じステージ2でも、何年もほとんど変わらない猫もいます。

一方で、数か月で数値が悪化する猫もいます。

ガイドラインで紹介されている研究では、進行するCKDの猫の生存期間中央値は287日、一方、安定している猫では894日でした。

だからこそ、

一度の検査結果ではなく、定期的にその猫の変化を追うこと

がとても重要なのです。


Dr.ナンバからひと言

私は以前から、

「腎臓食を食べない猫を、腎臓食にこだわって痩せさせてはいけない」

とお話ししてきました。

療法食はとても大切です。

でも、療法食を食べさせること自体が治療の目的になってしまってはいけません。

私たちが治療しているのは、

腎臓ではなく、その腎臓を持っている猫です。

食べる。

眠る。

歩く。

ウンチをする。

飼い主さんのそばで気持ちよさそうに過ごす。

こうした普通の毎日をできるだけ長く守ってあげること。

それが慢性腎臓病の治療で一番大切なことだと思っています。

2026年の新しいガイドラインを読んでいると、獣医療も少しずつ、そんな方向へ進んできたように感じます。


よくある質問

Q.猫が腎臓病用のフードをまったく食べません。どうすればいいですか?

食べないまま体重が減ることの方が問題です。

まず食べられる食事を確保し、その中で腎臓病用療法食を少しずつ取り入れる方法を考えます。

無理に切り替えるのではなく、その猫が食べられる量、体重、筋肉量を見ながら調整します。


Q.腎臓病になったら肉やタンパク質は禁止ですか?

一律に禁止するものではありません。

現在の猫のCKD栄養管理では、タンパク質を単純に減らすことより、十分なエネルギーと筋肉量を保ちながら、リンを適切に管理することが重要とされています。


Q.腎臓病になったら皮下点滴を毎日した方がいいですか?

すべての猫に必要ではありません。

脱水の程度や食事から摂れる水分量、心臓の状態なども含めて判断します。


Q.腎臓病の猫でも歯科治療や麻酔はできますか?

状態が安定していれば可能です。

CKDだけを理由に必要な処置を避けるのではなく、血圧、脱水、電解質などを確認して安全性を高めて行います。


Q.腎臓病になったら、どのくらいの頻度で検査しますか?

診断直後や治療を変更した直後は2~4週間程度で再検査することがあります。

安定していれば、その後は3~6か月程度の間隔で経過を見ることができます。

ただし年齢、ステージ、進行速度によって検査間隔は変わります。


猫の腎臓病で覚えておいてほしいこと

猫の慢性腎臓病は、残念ながら一度失われた腎機能を完全に元へ戻すことが難しい病気です。

でも、

慢性腎臓病=すぐに具合が悪くなる病気

ではありません。

適切な食事管理、水分管理、血圧やリンのコントロール、吐き気や便秘、貧血、痛みなどを一つひとつ整えてあげることで、長期間元気に暮らせる猫はたくさんいます。

そして2026年の新しいガイドラインが教えてくれている大切なことは、

「腎臓の数値だけを診るのではなく、猫そのものを診る」

ということだと思います。

腎臓を守る。

でも同時に、

体重を守る。筋肉を守る。食欲を守る。そして、その猫らしい毎日を守る。

それが、これからの猫の慢性腎臓病治療です。

気になる変化があれば、「まだ元気だから」と待たず、一度ご相談ください。


参考文献

Taylor S, Finch N, Caney S, et al. 2026 iCatCare consensus guidelines on the diagnosis and management of chronic kidney disease in cats. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2026;28:1–40.
本ガイドラインは、早期診断、IRIS分類、栄養管理、リン・カルシウム代謝、貧血、蛋白尿、高血圧、疼痛、麻酔、併存疾患、在宅管理までを包括的に扱っています。

執筆:難波信一
マーブル動物医療センター 院長・獣医師

最終更新:2026年9月

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