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Dr. ナンバの時間 Vol.39 眼がキラキラ、食欲旺盛、元気もりもり。でも痩せてきた?

2026/10/6

Dr. ナンバの時間 Vol.39 眼がキラキラ、食欲旺盛、元気もりもり。でも痩せてきた?

高齢猫の甲状腺機能亢進症。「歳だから痩せた」ではないかもしれません

― よく食べるのに痩せる高齢猫で、一度は考えたい病気です ―

執筆・監修:難波 信一 獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長


この記事の要点

結論:高齢の猫が「よく食べる、元気に動く、それなのに痩せてきた」という場合、甲状腺機能亢進症の可能性があります。単なる老化と思わず、一度は甲状腺ホルモン(T4)を調べてみる価値があります。

  • 猫の甲状腺機能亢進症は、中高齢~高齢猫でよくみられる内分泌疾患です。

  • 典型的な症状は、食欲旺盛なのに体重が減ることです。

  • 落ち着きがない、よく鳴く、水をよく飲む、嘔吐や下痢などがみられることもあります。

  • 「歳なのに妙に元気」「眼がキラキラして若返ったみたい」という変化が、病気による代謝亢進の場合もあります。

  • 診断の基本は血液中の**総T4(甲状腺ホルモン)**測定です。

  • T4が正常範囲でも、症状から強く疑われる場合には再検査や追加検査が必要なことがあります。

  • 海外では放射性ヨウ素(I-131)が根治的治療として高く評価されていますが、日本では実施できる施設が非常に限られています。

  • そのため日本の日常診療では、チアマゾール(メチマゾール)による内科治療が現実的な治療の中心になりやすいのが実情です。

  • 治療後に、それまで隠れていた慢性腎臓病(CKD)が表面化することがあります。


「歳のわりに元気やなぁ」……本当に元気なのでしょうか?

15歳の猫。

最近、とてもよく食べる。

ごはんの催促もすごい。

家の中をよく歩き回る。

夜になるとよく鳴く。

眼もキラキラ。

「歳のわりに元気やなぁ」

ところが、抱っこしてみると、

あれ? 軽くなってない?

体重を測ってみると、半年前よりかなり減っている。

こんなとき、私は一度、

猫の甲状腺機能亢進症

を考えます。


猫の甲状腺機能亢進症とは?

甲状腺は首の左右にある小さな臓器で、

T4(サイロキシン)やT3(トリヨードサイロニン)

という甲状腺ホルモンを作っています。

甲状腺ホルモンは、簡単に言えば、

体の代謝スピードを調節するホルモン

です。

猫の甲状腺機能亢進症では、このホルモンが必要以上に作られます。

すると体全体が、

ずっとアクセルを踏んだような状態

になります。

食べる。

動く。

心臓も速く動く。

エネルギーもどんどん消費する。

その結果、

食べているのに痩せていく。

これが、この病気の典型的な姿です[1,2]。


どんな猫に多いの?

主に中高齢~高齢猫で、特に10歳を超えた猫でよくみられます。

多くの場合、原因は甲状腺の良性の結節性過形成や腺腫です[1,2]。

左右両方の甲状腺が異常になる猫も珍しくありません。

一方、初診時から甲状腺癌が原因となっているケースは少数です。

つまり、

「高齢猫によく起こる、甲状腺ホルモンの出過ぎ」

と考えると分かりやすいと思います。


猫の甲状腺機能亢進症でよくみられる症状

もっとも有名なのは、

食欲があるのに痩せる

ことです。

そのほか、

  • 食欲が異常に強くなった

  • 落ち着きがなくなった

  • 活動性が高くなった

  • よく鳴く、夜鳴きが増えた

  • 水をよく飲む

  • 尿量が増えた

  • 嘔吐する

  • 下痢や便の量が増えた

  • 毛並みが悪くなった

  • 心拍数が速くなった

  • 筋肉が落ちてきた

などがみられます[1,2]。

ですから、

「元気があるから病気ではない」

とは限りません。

この病気ではむしろ、

病気だから元気そうに見える

ことがあります。


「眼がキラキラする」は甲状腺機能亢進症の症状?

「眼がキラキラする」こと自体は、甲状腺機能亢進症を診断する医学的な症状ではありません。

でも診察室では、

「最近、妙に眼が冴えている」

「歳なのに若返ったみたい」

「昔より落ち着きがなくなった」

と飼い主さんから聞くことがあります。

実際、昔の国内症例報告にも、甲状腺機能亢進症の猫について「目がらんらんと輝き、診察台から逃亡しようとする」と記載された例があります。

ですから私は、

「最近、妙に元気になった」

という変化も、高齢猫では大切な情報だと思っています。


なぜ「よく食べるのに痩せる」の?

甲状腺ホルモンが増えすぎると、基礎代謝が上がります。

つまり、

体がエネルギーをどんどん消費してしまう。

そのため体は、

「もっと食べろ」

という状態になります。

食欲は増える。

でも、それ以上にエネルギーを消費する。

その結果、

食べているのに脂肪や筋肉が落ち、体重が減っていく

という、一見不思議な状態になります。

高齢猫の体重減少を、

「歳だから筋肉が落ちたんだろう」

だけで済ませない方がよい理由のひとつです。


どうやって診断するの?

診断の基本は、

血液中の総T4(Total T4)

を測定することです。

「よく食べるのに痩せる」「活動性が高くなった」といった典型的な症状があり、T4が明らかに高ければ、甲状腺機能亢進症と診断できます[1,2]。

同時に、

  • 血球検査

  • 肝酵素

  • 腎機能

  • 尿検査

  • 血圧

  • 心臓の状態

なども確認します。

甲状腺機能亢進症は、甲状腺だけを見る病気ではありません。

心臓、腎臓、血圧、筋肉など全身に影響する病気

だからです。


T4が正常なら甲状腺機能亢進症ではない?

そうとは限りません。

初期の甲状腺機能亢進症では、T4が基準範囲内に入っていることがあります。

また、別の病気を同時に持っている猫では、本来高いはずのT4が低めに測定されることもあります[1,2]。

特に高齢猫では、年齢とともにT4は低くなる傾向があります。

そのため、

高齢猫でT4が「正常範囲の上の方だから大丈夫」と単純には言えません。

症状から強く疑う場合には、

  • T4の再検査

  • free T4

  • TSH

  • 必要に応じた追加検査

を考えます。

一度の数字だけではなく、

以前のT4と比べて上昇していないか

を見ることも大切です。


放っておいても大丈夫?

治療せずに放置してよい病気ではありません。

甲状腺ホルモンが高い状態が続くと、

  • 頻脈

  • 心筋の肥厚

  • 高血圧

  • 筋肉量の低下

  • 消化器症状

  • 全身の代謝への負担

などが起こります[1,2]。

「食べているし、元気だから」

と様子をみている間にも、体には負担がかかります。

甲状腺機能亢進症と診断された猫は、基本的に治療を考える病気です。


猫の甲状腺機能亢進症にはどんな治療がありますか?

主な治療法は4つあります。

治療

特徴

抗甲状腺薬

甲状腺ホルモンの産生を抑える。継続投与が必要

放射性ヨウ素(I-131)

異常な甲状腺組織を選択的に治療する根治的治療

甲状腺摘出術

異常な甲状腺を外科的に切除

ヨウ素制限食

ヨウ素摂取を厳密に制限してホルモン産生を抑える

海外のガイドラインでは、放射性ヨウ素(I-131)は非常に優れた根治的治療として高く評価されています[1,2]。

しかし、

海外で推奨される治療と、日本で現実的に受けられる治療は必ずしも同じではありません。


日本では、メルカゾールによる内科治療が中心になりやすい

日本では、

放射性ヨウ素(I-131)治療を実施できる獣医療施設が非常に限られています。

放射性物質を扱うための施設・管理体制が必要だからです。

そのため日本の一般診療では、

チアマゾール(メチマゾール)による内科治療が、現実的な治療の中心になりやすい

のが実情です。

「メルカゾール®」という名前をご存じの飼い主さんも多いと思います。

チアマゾールは、

甲状腺ホルモンが作られる過程を抑える薬

です。

ただし、

異常になった甲状腺そのものをなくす薬ではありません。

したがって、内科治療を選択する場合には、基本的に継続した投薬が必要になります。


メルカゾールを飲み始めたら、何を調べるの?

治療開始後は、

  • T4

  • 体重

  • 症状

  • 血球検査

  • 肝機能

  • 腎機能

などを定期的に確認します。

薬が少なすぎれば甲状腺機能亢進症が十分に抑えられません。

反対に効きすぎると、甲状腺機能低下症になることがあります。

また、チアマゾールでは、

  • 嘔吐

  • 食欲低下

  • 顔面の強いかゆみ

  • 肝障害

  • 白血球や血小板などの血球異常

が起こることがあります[1,2]。

特に治療開始後の数か月は、きちんとモニターすることが大切です。


I-131は悪い治療なの?

いいえ。むしろ非常に優れた治療です。

I-131は、異常に働いている甲状腺組織に放射性ヨウ素を取り込ませ、その組織を選択的に治療します。

海外では、一度の治療で長期的な正常化が期待できる猫が多く、AAHAでは95%以上で治癒が期待できるとしています[1]。

ですから、

「I-131よりメルカゾールの方が優れている」

という話ではありません。

問題は、

日本ではI-131を誰でも容易に選択できるわけではない

ということです。

日本の飼い主さん向けの記事で、

「第一選択はI-131です」

とだけ書いて終わるのは、私は少し現実離れしていると思います。


治療したら腎臓が悪くなった?

これは、とても大切なところです。

甲状腺機能亢進症になると、腎臓への血流や糸球体濾過量(GFR)が増えるため、

実際には慢性腎臓病があっても、血液検査では腎機能が良く見える

ことがあります[4]。

甲状腺機能を正常に戻すと、GFRも正常方向へ戻ります。

その結果、

それまで隠れていた腎機能低下が表面に出てくることがあります。

ですから、

「メルカゾールを飲ませたら腎臓病になった」

とは限りません。

むしろ、

もともと存在していた腎臓病が、甲状腺を治療したことで見えるようになった

可能性があります。

だから治療前後には、

甲状腺だけでなく、腎臓も一緒に見る。

これが非常に大切です。


メルカゾール治療には、日本では大きな意味があります

抗甲状腺薬による治療には、

投薬量を調整できる

という大きな特徴があります。

高齢猫では慢性腎臓病、心臓病、糖尿病など、別の病気を持っていることも珍しくありません。

甲状腺ホルモンを下げながら、

  • 元気

  • 食欲

  • 体重

  • T4

  • クレアチニン

  • SDMA

  • 尿検査

などを見て、薬の量を調整できます。

日本の一次診療施設からも、I-131を容易に利用できない環境において、メチマゾールによる長期治療や甲状腺摘出術を比較した臨床研究が報告されています[5]。

I-131を選びにくい国で、内科治療をどう上手に続けるか。

これは日本の猫の甲状腺機能亢進症診療では、とても重要なテーマだと思います。


元気がなくなる甲状腺機能亢進症もあります

ここまで、

「食べる、動く、痩せる」

という典型的な猫について説明しました。

でも、すべての猫がそうなるわけではありません。

一部では、

  • 食欲がない

  • 元気がない

  • ぐったりする

  • 活動性が低い

といったタイプもあります。

いわゆる、

apathetic hyperthyroidism

と呼ばれる状態です。

ですから、

「元気じゃないから甲状腺ではない」

とも言えません。


Dr.難波から

猫の甲状腺機能亢進症は、昔から私が興味を持って診てきた病気のひとつです。

……病気を「好き」と言うと、少し変ですけどね(笑)。

診察室で、

「先生、この子、歳なのにものすごく元気なんです」

「ごはんもめちゃくちゃ食べます」

と聞いて猫を見る。

眼がキラキラ。

診察台でも落ち着かない。

ところが触ってみると、

背中や腰の筋肉がずいぶん落ちている。

体重を確認すると、やっぱり減っている。

そんなとき、

「元気ですね」

だけで終わらせず、

「この元気、本当に健康な元気かな?」

と考えます。

甲状腺機能亢進症は、

「具合が悪そうだから見つかる病気」とは限りません。

むしろ、

「最近、若返ったみたい」

というところから始まることがあります。

海外の教科書やガイドラインを読むと、

I-131が治療の第一選択

と書かれています。

医学的にはよく分かります。

とても優れた治療です。

でも、日本の診察室では事情が少し違います。

I-131を受けられる施設は非常に限られています。

そのため実際には、

メルカゾールを飲みながら、T4、腎機能、体重、症状を見て、長く付き合っていく猫が多い。

それが日本の臨床の現実です。

私自身、これまでそういう猫たちをたくさん診てきました。

そして今、

当院でチアマゾールによる長期管理を受けてきた猫たちの臨床データをあらためて整理し、論文としてまとめています。

カルテを見返していると、改めて思います。

体重って、本当に大切です。

「よく食べている」

「元気がある」

だけではなく、

半年前と比べて体重がどうなったか。

高齢猫では、ぜひ見てあげてください。

眼がキラキラ。

食欲旺盛。

元気もりもり。

でも、

痩せてきた。

そんなときは、

「歳だからかな?」

で終わらせず、

一度T4を測ってみる。

そこから見つかる病気があります。


よくある質問

猫がよく食べるのに痩せています。甲状腺機能亢進症ですか?

高齢猫で「食欲旺盛なのに体重が減る」は、甲状腺機能亢進症の代表的な症状です。

ただし糖尿病や消化器疾患などでも同様の症状がみられるため、血液検査などで確認します。

何歳くらいから注意すればいいですか?

主に中高齢~高齢猫でみられ、10歳を超えた猫では特に意識したい病気です。

健康診断の血液検査にT4を加えることを検討してもよいでしょう。

T4が正常なら大丈夫ですか?

症状が強く疑わしい場合、1回の正常T4だけでは完全に否定できないことがあります。

再検査やfree T4などの追加検査を行うことがあります。

メルカゾールを飲めば治りますか?

甲状腺ホルモンを抑えて病気をコントロールできますが、異常な甲状腺そのものを治す薬ではありません。

内科治療を選択する場合には、基本的に継続投与と定期検査が必要です。

日本ではI-131治療は受けられますか?

受けられる施設はありますが、実施施設は非常に限られています。

そのため、日本の一般診療ではチアマゾールによる内科治療が現実的な選択になることが多くあります。

I-131とメルカゾールはどちらが良いですか?

治療目的が違います。

I-131は根治を目指せる治療で、チアマゾールは甲状腺ホルモンを抑えて病気をコントロールする治療です。

日本では治療へのアクセス、猫の年齢、腎機能、併存疾患なども考えて選択します。

治療すると腎臓が悪くなりますか?

治療によって腎臓病が新しく作られる、という単純な話ではありません。

甲状腺機能亢進症によって隠れていたCKDが、治療後に明らかになることがあります。

「眼がキラキラ」は甲状腺の症状ですか?

それ自体は診断できる症状ではありません。

ただし、活動性が高い、落ち着きがない、興奮しやすいといった変化を、飼い主さんが「眼がキラキラして若返った」と感じることがあります。


まとめ

高齢猫が、よく食べて元気なのに痩せてきたら、「歳だから」だけで済ませないでください。

甲状腺機能亢進症では、

  • 食欲旺盛

  • 体重減少

  • 活動性の亢進

  • 夜鳴き

  • 多飲多尿

  • 嘔吐・下痢

  • 頻脈

  • 筋肉量の低下

などがみられます。

そして、

元気そうに見えること自体が病気のサイン

ということもあります。

日本ではI-131治療へのアクセスが限られているため、チアマゾールによる内科管理が重要な役割を担っています。

大切なのは、

「何の治療が世界で一番優れているか」だけではなく、その猫に現実的で、安全に続けられる治療は何か

を考えることです。

そして何より、

体重の変化を見ること。

眼がキラキラ。

食欲旺盛。

元気もりもり。

なのに痩せてきたら、

一度、甲状腺を調べてみましょう。


参考文献

  1. Bugbee A, Rucinsky R, Cazabon S, et al. 2023 AAHA Selected Endocrinopathies of Dogs and Cats Guidelines. J Am Anim Hosp Assoc. 2023;59(3):113–135. doi:10.5326/JAAHA-MS-7368.

  2. Carney HC, Ward CR, Bailey SJ, et al. 2016 AAFP Guidelines for the Management of Feline Hyperthyroidism. J Feline Med Surg. 2016;18(5):400–416. doi:10.1177/1098612X16643252.

  3. Peterson ME. Hyperthyroidism in cats: considering the impact of treatment modality on quality of life for cats and their owners. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2020;50(5):1065–1084.

  4. Becker TJ, Graves TK, Kruger JM, Braselton WE, Nachreiner RF. Effects of methimazole on renal function in cats with hyperthyroidism. J Am Anim Hosp Assoc. 2000;36(3):215–223.

  5. Naito E, Hirano T, Taira H, et al. Comparison of survival times of cats with hyperthyroidism treated with thyroidectomy or methimazole at a primary care hospital in Japan. J Am Vet Med Assoc. 2024;262(11):1526–1532. doi:10.2460/javma.24.01.0057.


執筆・監修
難波 信一
獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長

初回公開:2026年10月6日

※本記事は、猫の甲状腺機能亢進症について、AAHA・AAFPガイドラインおよび獣医学文献をもとに、一般の飼い主さん向けに解説しています。症状、検査値、治療方法は猫ごとに異なります。治療については、かかりつけの獣医師とご相談ください。

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