Dr.ナンバの時間 Vol.43 元気だから健診はいらない? 犬・猫のシニア健診で分かること
血液検査だけで十分? レントゲンやエコーは必要? シニア期の健康診断を獣医師が解説
― 病気を探すためだけではなく、「元気な今」を知っておくための健診です ―
この記事の要点
結論:元気で食欲があっても、シニア期の犬・猫には定期的な健康診断をおすすめします。
シニア期には、腎臓病、肝臓病、心臓病、内分泌疾患、腫瘍などが、はっきりした症状を出さないまま進んでいることがあります。
健康診断では、
身体検査
血液検査
レントゲン検査
超音波検査
などを、その子の年齢や状態に応じて組み合わせます。
ただし、
シニアになったら全員が毎回フルコースの検査を受けなければならない、という意味ではありません。
まず基本的な検査を行い、年齢、犬種・猫種、これまでの病歴、身体検査の結果などから、必要な検査を追加していく。
それで十分なワンちゃん・ネコちゃんもたくさんいます。
大切なのは、
「病気があるかどうか」だけではなく、「この子のいつもの状態」を知っておくこと。
です。
「元気なんですけど、健診って必要ですか?」
診察室でよく聞かれます。
「元気です」
「食欲もあります」
「散歩にも行きます」
「特に困っていることはありません」
それなら、
「わざわざ検査しなくてもいいんじゃない?」
と思いますよね。
気持ちはよく分かります。
でも、
健康診断は、具合が悪くなった動物に行う検査とは少し目的が違います。
具合が悪くなってから、
「何の病気だろう?」
と調べるのが診断検査。
一方、健康診断では、
元気なときの状態を確認し、小さな変化をできるだけ早く見つける
ことが目的になります。
シニアって、何歳から?
実は、
「何歳からシニア」という線引きは、すべての犬・猫で同じではありません。
大型犬と小型犬では加齢のスピードが違いますし、猫にも個体差があります。
犬では犬種や体格、予想寿命によってシニア期に入る時期は異なります。
ですから、
「7歳になった瞬間に高齢動物になる」
という意味ではありません。
ただ、健康管理を少し丁寧に考え始めるきっかけとして、
当院では7歳以上のワンちゃん・ネコちゃんを対象に、10月から12月までシニア健康診断を行っています。
元気なのに、病気が見つかることはある?
あります。
犬や猫は、
体調の変化を言葉で伝えてくれません。
そして飼い主さんが毎日一緒にいるからこそ、
ゆっくりした変化には意外と気づきにくいことがあります。
例えば、
「最近よく水を飲むような……」
「少し痩せたかな?」
「昔ほどジャンプしなくなった」
「寝ている時間が増えた」
「食欲はむしろあります」
こうした変化が、
「歳だからかな」
で済まされていることがあります。
でも、その背景に、
慢性腎臓病
甲状腺疾患
糖尿病
肝胆道疾患
心臓病
関節疾患
腫瘍
などが隠れていることがあります。
「歳を取ったから仕方ない」と「病気だから変わった」は、同じではありません。
血液検査では何が分かる?
シニア健診の基本になる検査のひとつが血液検査です。
血液検査では、
赤血球・白血球・血小板
貧血や炎症、血液疾患などの手がかりになります。
腎臓
BUN、クレアチニン、SDMAなどから、腎機能の変化を評価します。
肝臓・胆道系
ALT、AST、ALP、ビリルビンなどから、肝細胞障害や胆汁うっ滞などの手がかりを探します。
血糖値
糖尿病などを調べます。
タンパク質や電解質
全身状態、慢性疾患、脱水などを考える材料になります。
必要に応じて、
甲状腺ホルモンなどを追加することもあります。
血液検査が正常なら、全部大丈夫?
いいえ。
ここは大切です。
血液検査はとても役に立ちます。
でも、
血液検査だけですべての病気が分かるわけではありません。
例えば、
小さな腫瘍があっても血液検査が正常なことがあります。
初期の心臓病でも、一般的な血液検査では分からないことがあります。
また、臓器に形の変化があっても、まだ血液検査には大きな異常が出ていない場合があります。
ですから、
「血液検査が正常=体の中に何も問題がない」
とは言えません。
だからこそ、
身体検査や、必要に応じたレントゲン・超音波検査などを組み合わせて考えます。
レントゲン検査では何が分かる?
レントゲンは、
体の形や臓器の大きさを見るのが得意な検査
と考えると分かりやすいでしょう。
例えば胸部レントゲンでは、
心臓の大きさ
肺の状態
気管・気管支
胸腔内の腫瘤
などを確認します。
腹部では、
肝臓
腎臓
脾臓
膀胱
消化管
などの大きさや位置、結石、石灰化などが分かることがあります。
またシニア犬では、
関節や脊椎の変形が見つかることもあります。
超音波(エコー)検査では何が分かる?
超音波検査では、
臓器の内部構造をリアルタイムで観察できます。
腹部エコーでは、
肝臓
胆嚢
腎臓
脾臓
膀胱
副腎
胃腸
膵臓
リンパ節
などを観察します。
血液検査では大きな異常がなくても、
胆嚢に変化があったり、
腎臓の形が変わっていたり、
副腎に腫瘤が見つかったり、
脾臓に結節が見つかったりすることがあります。
一方、心臓エコーでは、
心臓の大きさ
心筋の厚さ
弁の状態
血液の流れ
心臓の収縮
などを評価します。
エコーをすれば全部分かる?
これも、
いいえ。
です。
超音波検査にも得意・不得意があります。
小さな変化が見つかることもありますが、
見つかった変化が、
「病気なのか」
「加齢による変化なのか」
「治療が必要なのか」
を判断するには、血液検査や経過観察、場合によっては細胞診や組織検査などが必要になります。
ですから、
エコーは“病名を自動的に出してくれる検査”ではありません。
血液検査も同じです。
検査結果を組み合わせて、
そのワンちゃん・ネコちゃん全体を見ることが大切です。
シニアになったら、全員フルコースで検査した方がいい?
私はそうは思いません。
健康診断は、
多ければ多いほどいい、
高価な検査ほどいい、
というものではありません。
例えば、
若い頃から毎年診ていて、
体重も変わらず、
身体検査にも異常がなく、
血液検査も安定している子。
一方で、
同じ年齢でも、
最近痩せてきた。
水を飲む量が増えた。
心雑音がある。
以前から肝臓の数値が高い。
腫瘤を触れる。
そんな子では、必要な検査が違います。
健診は、その子に必要な範囲で行えばいい。
それが基本だと思っています。
健診で一番大切なのは「前回との比較」
これは私が健康診断でかなり大切にしていることです。
基準値の中に入っているかどうかだけではなく、
その子自身の数字がどう動いているか。
例えば、
クレアチニンはまだ正常範囲。
でも、
去年より少し上がった。
さらにその前よりも上がっている。
体重も少し減っている。
そうなれば、
単に、
「正常値だから大丈夫」
で終わらせず、経過を注意して見ていく必要があります。
反対に、
少し基準値を外れていても、
何年間もほぼ同じで、
本人は元気。
他の検査にも問題なし。
ということもあります。
一回の数字より、時間の流れを見る。
そのためにも、
元気なときの検査データには意味があります。
「異常なし」も大切な結果です
健診を受けて、
「特に異常ありませんでした」
と言われる。
すると、
「何もなかったなら、検査しなくても同じだったかな?」
と思うかもしれません。
でも、
私はそうは思いません。
元気なときの正常な状態を記録できた。
これは、将来何か変化が起きたときの大切な比較材料になります。
去年はこの体重。
去年はこの腎臓の数値。
去年の心臓はこの大きさ。
去年のエコーではこうだった。
それがあるから、
「変わった」
と分かります。
健診で病気が見つかったら、全部治療するの?
これも違います。
シニア健診をすると、
小さな変化が見つかることがあります。
でも、
見つけたものすべてを薬で治療するわけではありません。
例えば、
今は治療せず、
3か月後に再検査する。
半年後にもう一度見る。
食事だけ少し変える。
体重を管理する。
そんな場合もあります。
病気を早く見つけるというのは、薬を早く始めることと同じではありません。
その子にとって一番よいタイミングで対応できる。
それが、早く知っておくメリットだと思います。
Dr.難波から
シニアのワンちゃん、ネコちゃんを診ていると、
よく言われます。
「歳だから仕方ないですよね」
でも私は、
この言葉を聞くと、
一度だけ考えます。
本当に歳のせいかな?
最近よく寝る。
散歩に行きたがらない。
少し痩せた。
水をよく飲む。
夜に鳴く。
ジャンプしなくなった。
毛艶が悪くなった。
もちろん、
歳を取れば変わることはあります。
でもその中に、
関節が痛い。
腎臓が悪くなっている。
甲状腺の病気がある。
そんな治療や管理のできる原因が隠れていることもあります。
だから、
「歳だから」で終わらせない。
これがシニア診療では大切だと思っています。
それから、
健康診断は、
怖い病気を無理やり探すためにするものでもないと思っています。
今、
この子がどんな状態なのか。
去年と比べてどうなのか。
この先、何に気をつければいいのか。
それを知るためのもの。
だから、
元気なときに受ける健診には、元気なときにしか得られない価値があります。
病気を見つけるためだけじゃない。
「元気な今」を記録しておく。
私は、それも健康診断の大切な役割だと思っています。
当院のシニア健康診断について
マーブル動物医療センターでは、
10月から12月まで、7歳以上の犬・猫を対象にシニア健康診断を行っています。
血液検査を基本に、
必要に応じて、
レントゲン検査
腹部超音波検査
心臓超音波検査
などを組み合わせます。
血液検査を中心とした健診は、通常の外来診療の中でも受けていただけます。
腹部・心臓エコーを含むコースは、より丁寧に検査するため原則としてお預かりで実施し、1日3件までとしています。
「どのコースがいいのか分からない」
という場合は、
その子の年齢やこれまでの病歴を見ながらご相談ください。
全員が同じ検査を受ける必要はありません。
その子に必要な健康チェックを一緒に考えましょう。
よくある質問
元気な犬・猫でも健康診断は必要ですか?
シニア期では、元気でも定期的な健診をおすすめします。
慢性疾患の中には、初期には目立った症状が出ないものがあります。
シニア健診は何歳から受ければいいですか?
シニア期に入る年齢は、犬種、体格、猫、個体によって異なります。
当院では、健康管理を見直すひとつの目安として、7歳以上の犬・猫を対象にシニア健康診断を行っています。
血液検査だけでもいいですか?
血液検査だけでも得られる情報はたくさんあります。
ただし、血液検査だけでは分からない病気もあります。
身体検査やこれまでの経過を見ながら、必要に応じてレントゲンやエコー検査を追加します。
血液検査が正常なら安心ですか?
大切な情報ですが、「すべての病気がない」という意味ではありません。
前回との比較や身体検査、必要に応じた画像検査を合わせて判断します。
レントゲンとエコーは両方必要ですか?
必ずしも全員に両方が必要なわけではありません。
それぞれ見えるものが違うため、その子の年齢や身体所見、血液検査の結果などから必要性を判断します。
健診で何か見つかったら、すぐ治療ですか?
必ずしもそうではありません。
軽い変化であれば、一定期間後に再検査して経過を見ることもあります。
まとめ
元気だから、健康診断はいらない。
必ずしもそうではありません。
シニア期の健康診断で大切なのは、
今の体の状態を知る
症状のない病気の手がかりを探す
前回の検査と比較する
これから注意することを知る
ことです。
そして、
すべてのワンちゃん・ネコちゃんに、すべての検査が必要なわけではありません。
まずその子を診る。
これまでの経過を見る。
基本的な検査をする。
必要なら、もう少し詳しく調べる。
それでいいと思います。
健康診断は、
病気を探して怖がるためのものではありません。
これからも元気に暮らすために、「元気な今」を知っておく。
そのための検査です。
参考文献
Dhaliwal RS, et al. 2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats. J Am Anim Hosp Assoc. 2023;59. doi:10.5326/JAAHA-MS-7343.
Quimby J, Gowland S, Carney HC, et al. 2021 AAHA/AAFP Feline Life Stage Guidelines. J Feline Med Surg. 2021;23(3):211–233.
Ray M, Carney HC, Boynton B, et al. 2021 AAFP Feline Senior Care Guidelines. J Feline Med Surg. 2021;23(7):613–638.
執筆・監修
難波 信一
獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長
初回公開:2026年10月7日
※本記事は、犬・猫のシニア期の健康管理について、AAHA Senior Care Guidelinesなどの獣医学文献をもとに一般の飼い主さん向けに解説しています。必要な検査や検査頻度は、年齢、犬種・猫種、体格、持病、これまでの検査結果によって異なります。
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