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Dr.ナンバの時間 Vol.42 犬の食物アレルギーを調べる方法 この痒み、フードが原因?

2026/10/7

Dr.ナンバの時間 Vol.42 犬の食物アレルギーを調べる方法 この痒み、フードが原因?

フードアレルギー? 食事アレルギー? 家庭でできる「除去食試験」とは

― フードを変えるだけではありません。「何を食べさせないか」が大切です ―

執筆・監修:難波 信一 獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長


この記事の要点

結論:犬の食物アレルギー、いわゆる「フードアレルギー」「食事アレルギー」は、血液検査だけで診断することはできません。現在、もっとも信頼できる診断方法は、決められた食事だけを一定期間与える「除去食試験」と、その後に元の食事を戻す「食物負荷試験」です。

  • 食物アレルギーでは、痒み、足舐め、外耳炎などがみられることがあります。

  • 症状だけで、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーを見分けることはできません。

  • 除去食試験では、決められた食事以外を食べさせないことが非常に重要です。

  • おやつ、人の食べ物、ガム、味付きの薬などでも試験結果に影響することがあります。

  • 一般には約8週間をひとつの目安にします。

  • 痒みが改善しただけでは、食物アレルギー確定とは言えません。

  • 改善後に元の食事を戻し、症状が再発するかを確認することが診断には重要です。

  • 市販の「アレルギー対応」「低アレルゲン」フードへ変えることと、厳密な除去食試験は同じではありません。

そして、実際にやってみると分かります。

除去食試験で一番難しいのは、ワンちゃんではなく家族です。


「先生、この子、フードが合っていないんでしょうか?」

ワンちゃんが痒がる。

足先をずっと舐めている。

耳が何度も悪くなる。

お腹や脇を掻いている。

そんなとき、診察室でよく聞かれるのが、

「フードが合っていないんでしょうか?」

という質問です。

インターネットで調べると、

「犬のフードアレルギー」

「犬の食事アレルギー」

「犬の食物アレルギー」

いろいろな言葉が出てきます。

皆さんが「フードアレルギー」「食事アレルギー」と呼んでいるものは、獣医学ではより広く食物有害反応として扱われます。

その中には、免疫反応が関係する「食物アレルギー」と、必ずしも免疫反応が関係しない「食物不耐症」などがあります。

この記事では分かりやすく、

食物アレルギー

という言葉を中心に説明します。


犬の食物アレルギーでは、どんな症状が出る?

犬の食物アレルギーでは、皮膚の痒みが代表的な症状です。

例えば、

  • 足先を舐める

  • 顔を擦る

  • 耳を痒がる

  • 外耳炎を繰り返す

  • 脇やお腹を掻く

  • お尻まわりを舐める

  • 皮膚炎を繰り返す

などがあります。

ワンちゃんによっては、

  • 軟便

  • 下痢

  • 排便回数の増加

  • 嘔吐

などの消化器症状を伴うこともあります。

ただし、

「この症状があるから食物アレルギー」

と言えるような、特徴的な症状があるわけではありません。


食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は見た目で分かる?

基本的には分かりません。

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は、

痒がる場所も、

皮膚の見た目も、

非常によく似ています。

そのため、

「足を舐めているから食物アレルギー」

「耳が痒いからアトピー」

というようには診断できません。

2023年のAAHAガイドラインでも、

診察時の症状や身体所見だけでは、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎を区別できない

とされています。

だからこそ、

実際に食事を使って調べる

必要があります。


血液のアレルギー検査で、食物アレルギーは分からないの?

ここは、とても大切です。

血液検査だけで犬の食物アレルギーを確定することはできません。

血液を採って、

牛肉。

鶏肉。

小麦。

大豆。

などについて「陽性」「陰性」と出る検査があります。

でも、

食物に対する血液中の抗体を測定した結果だけでは、本当にその食物が症状の原因なのか判断できません。

食物アレルギーの犬と健康な犬を比較した研究でも、血液や唾液を使った食物アレルギー検査には、十分な診断精度がありませんでした。

現在も、

食物アレルギーを調べる基本は除去食試験です。


除去食試験って何?

名前が少し難しいですよね。

簡単に言えば、

「原因になりそうな食べ物を一度すべて避けてみる検査」

です。

ただし、

単に、

「今までチキンだったから、サーモンのフードに変えてみよう」

という話ではありません。

除去食試験は、

決められた食事だけを一定期間、厳密に食べてもらい、痒みや皮膚炎が改善するかを見る診断検査

です。

つまり、

フード変更ではなく、検査です。

ここを理解してもらうことがとても重要です。


どんなフードを使うの?

大きく分けると、主に2つの方法があります。

① 加水分解タンパク食

タンパク質を細かく分解した食事です。

免疫系がアレルゲンとして認識しにくくすることを目的に作られています。

動物病院で処方する療法食として、さまざまな製品があります。

② 新奇タンパク食

そのワンちゃんが、

これまで食べたことのないタンパク質

を使った食事です。

ただし、これには過去の食事歴が非常に重要です。

今まで、

牛肉。

鶏肉。

豚肉。

魚。

鹿肉。

いろいろなおやつ。

いろいろなフード。

を食べてきたワンちゃんでは、

「本当に初めて食べるタンパク質」

を探すのが意外と難しいことがあります。

だから診察室で、

今まで何を食べてきたか

を細かく聞くわけです。


市販の「アレルギー対応フード」ではダメなの?

厳密な除去食試験では、動物病院で使用する療法食を選ぶのが基本です。

市販のフードにも、

「アレルギー対応」

「低アレルゲン」

「単一タンパク」

などと書かれた製品があります。

それ自体が悪いわけではありません。

ただし、市販フードでは、表示されていないタンパク質が微量に混入していることが報告されています。

そのため、

食事を変えてみること

と、

食物アレルギーを診断するための厳密な除去食試験

は分けて考えた方がよいでしょう。

2023年のAAHAガイドラインでも、本格的な除去食試験には動物病院用の療法食が推奨されています。


家庭で作った食事でもできる?

できます。

これまで食べたことのない食材を選び、

非常にシンプルな家庭食を用意する方法もあります。

ただし、

自己流の手作り食を長期間続けることはおすすめしません。

特に成長期のワンちゃんでは、栄養バランスの問題があります。

除去食試験として手作り食を使う場合には、

何を、

どれくらい、

どのくらいの期間使うのか、

獣医師と相談して行う方が安全です。


おやつは本当にダメ?

はい。原則としてダメです。

ここで除去食試験が難しくなります(笑)。

例えば、

お父さんが、

「これくらいならいいだろ」

とパンをひとかけ。

お母さんが、

薬をチーズに包む。

子どもが、

かわいそうだからジャーキーを1本。

散歩中に、

近所の方からおやつをひとつ。

これだけでも、

厳密な除去食試験としては問題になります。

除去食試験中は、

決めた食事以外を口に入れない

のが基本です。


こんなものにも注意します

食べ物だけではありません。

意外なところに食物由来の成分が使われていることがあります。

例えば、

  • おやつ

  • デンタルガム

  • 人の食べ物

  • チーズや肉を使った投薬

  • 栄養補助食品

  • 味付きの薬

  • 味付きのフィラリア予防薬

  • 味付きのノミ・マダニ予防薬

  • 食べられるタイプの歯磨き製品

などです。

ただし、

予防薬や必要な薬を自己判断で中止してはいけません。

除去食試験を始めるときに、

「この薬は大丈夫?」

と動物病院へ確認してください。


多頭飼いの場合はどうする?

これも意外と難しい。

隣のワンちゃんや猫ちゃんのフードを、

ひと口盗み食い。

これで試験が崩れることがあります。

多頭飼育の場合には、

  • 食事場所を分ける

  • 食べ終わったら食器を片づける

  • 留守中に他の子のフードへ近づけないようにする

などの工夫が必要です。

キッチンに落ちた食べ物を拾い食いするワンちゃんも要注意です。


除去食試験は何週間やるの?

ひとつの目安は8週間です。

2023年AAHAガイドラインでは、

4〜12週間

の除去食試験が推奨されています。

過去の研究をまとめた報告では、食物アレルギーの犬の90%以上で症状の改善を確認するには、

少なくとも8週間程度

の試験が必要とされています。

つまり、

「1週間フードを変えたけど痒いから、このフードもダメ」

では判定できません。

皮膚の炎症は、

原因となる食物をやめたその日にすべて消えるわけではないからです。


痒み止めを使いながら除去食試験をしてもいい?

使うことがあります。

痒みが強いワンちゃんに、

「検査だから8週間ずっと我慢してください」

というのは現実的ではありません。

そのため除去食試験の初期には、

  • オクラシチニブ(アポキル)

  • イルノシチニブ(ゼンレリア)

  • ステロイド

などの痒み止めを併用することがあります。

アポキルやゼンレリアは、アレルギー性皮膚炎などの痒みを抑えるために使用されるJAK阻害薬です。

ただし、

痒み止めが効いている間は、

食事で良くなったのか、薬で良くなったのか

分かりません。

そのため、獣医師の指示のもとで適切な時期に薬を調整し、食事だけで痒みが抑えられているか確認します。

長く作用する薬を使っている場合には、判定方法や試験期間を調整することもあります。

自己判断で痒み止めを突然中止する必要はありません。


細菌感染やマラセチアがあっても試験できる?

できますが、

同時に治療することが重要です。

アレルギーのワンちゃんでは、

  • 膿皮症

  • マラセチア皮膚炎

  • 外耳炎

などの二次感染を起こすことがあります。

これらが残っていると、

原因となる食物を除いていても痒みが続きます。

すると、

「除去食が効かなかった」

と誤って判断してしまいます。

除去食試験では、

食事だけでなく、皮膚の感染症やノミ・ダニなども同時に整理しておく

ことが大切です。


痒みが減ったら、食物アレルギー確定?

いいえ。ここが非常に重要です。

除去食で痒みが良くなった。

「やっぱりフードアレルギーだった❗」

と言いたくなります。

でも、まだ確定ではありません。

なぜなら、

その間に、

  • 季節が変わった

  • 二次感染が治った

  • 痒み止めが効いた

  • ノミ対策が効いた

など、別の理由で改善した可能性があるからです。

そこで行うのが、

食物負荷試験

です。


なぜ元のフードをもう一度食べさせるの?

せっかく良くなったのに、

「先生、なんで元のフードに戻すんですか?」

と思いますよね。

理由は、

本当に食事が原因だったか確認するため

です。

除去食で症状が改善したあと、

元の食事をもう一度与えます。

そして、

再び痒みが出るか

を観察します。

2023年AAHAガイドラインでは、元の食事を再導入したあと、

14日以内に痒みが再発するか

をひとつの判定基準としています。

症状が再発し、

もう一度除去食に戻すと改善する。

そこまで確認できれば、

食物アレルギーである可能性は非常に高くなります。


元のフードを戻すのが怖い場合は?

気持ちはよく分かります。

せっかく痒みが治ったのに、

また痒くさせる。

少しかわいそうに思えます。

でも、

負荷試験をしなければ、

本当に食物アレルギーだったのか

が分からないまま、

療法食を長期間続けることになる場合があります。

もちろん、

過去に食物で非常に重い反応を起こしたことがあるなど、

負荷試験が適切でないケースもあります。

そこは獣医師と相談して判断します。


何が原因の食材かまで分かる?

除去食で改善し、元の食事で再発したあと、

必要であれば、

食材をひとつずつ追加する

ことで原因食材を絞っていく方法があります。

例えば、

鶏肉。

問題なし。

次に牛肉。

痒みが再発。

というように調べます。

ただし、これは時間も手間もかかります。

必ずすべての原因食材を突き止めなければならないわけではありません。

症状が出ない食事を安全に続けられること

が、最終的には一番大切です。


フードをコロコロ変えるのは、除去食試験ではありません

診察室でよくあるのが、

「チキンがダメかと思って魚にしました」

「魚も痒かったのでラムにしました」

「ラムもダメだったので鹿にしました」

というケースです。

でも、

その途中でおやつも食べている。

前のフードも少し残っている。

家族から人の食べ物ももらっている。

これでは、

何が原因だったのか分からなくなります。

除去食試験は、

たくさんのフードを試すことではありません。

ひとつの計画を決めて、一定期間きっちり続けること。

これが大切です。


Dr.難波から

「先生、フード変えた方がいいですか?」

痒いワンちゃんを診ていると、

本当によく聞かれます。

もちろん、

食物アレルギーはあります。

でも、

痒いワンちゃんがみんなフードアレルギーというわけではありません。

アトピー。

ノミ。

感染症。

マラセチア。

デモデックス。

いろいろあります。

そして食物アレルギーを疑ったとき、

一番大切なのは、

何のフードを買うか

より、

決めた食事以外を食べさせないこと

です。

これが意外と難しい。

診察室では、

「8週間、このフードだけでお願いします」

と説明します。

すると飼い主さんは、

「分かりました❗」

と帰られる。

次の診察で、

「おやつは?」

「少しだけ」

「薬は?」

「チーズに包んでます」

「ご家族は?」

「お父さんがちょっと……」

……お父さん(笑)。

除去食試験は、

ワンちゃんだけが頑張る検査ではありません。

家族全員でやる検査です。

そして、

食事を変えて良くなっただけで、

「このフードが原因だった」

と決めつけない。

一度良くなったら、

本当に食事が原因だったのか確認する。

医学的には、そこまでやって初めて意味があります。

だから私は、

除去食試験で一番難しいのは、ワンちゃんではなく家族です。

と思っています(笑)。

でも、

きちんとできれば、

血液検査だけでは分からないことを、

ワンちゃん自身の体が教えてくれます。

それが、除去食試験です。


よくある質問

犬のフードアレルギーは血液検査で分かりますか?

血液検査だけで確定することはできません。

現在もっとも信頼されている方法は、除去食試験と、その後の食物負荷試験です。

犬の食物アレルギーではどんな症状が出ますか?

痒み、足舐め、外耳炎、皮膚炎などが代表的です。

一部のワンちゃんでは、軟便、下痢、嘔吐などの消化器症状を伴うこともあります。

「食事アレルギー」と「フードアレルギー」は違いますか?

飼い主さんの間では、ほぼ同じ意味で使われています。

獣医学では、より広く「食物有害反応」という言葉が使われ、その中に食物アレルギーや食物不耐症などが含まれます。

除去食試験は何週間必要ですか?

一般には約8週間がひとつの目安です。

2023年AAHAガイドラインでは4〜12週間とされています。

除去食試験中におやつをあげてもいいですか?

原則として、決められた食事以外は与えません。

おやつだけでなく、ガム、人の食べ物、味付きの薬などにも注意します。

市販のアレルギー用フードでもできますか?

厳密な診断を目的とした除去食試験では、通常は動物病院用の療法食を使用します。

市販フードへの変更が役立つ場合もありますが、本格的な除去食試験とは分けて考えます。

痒みが治ったら食物アレルギー確定ですか?

まだ確定ではありません。

元の食事を再び与えて症状が再発するか確認する「食物負荷試験」が重要です。

除去食試験中に痒み止めを使ってもいいですか?

使用することがあります。

ただし、判定に影響するため、薬の使用期間や調整時期は獣医師と相談して決めます。


まとめ

犬の食物アレルギー、いわゆるフードアレルギーや食事アレルギーを調べる基本は、除去食試験です。

大切なのは、

  • 適切な食事を選ぶ

  • 決めた食事以外を与えない

  • おやつや味付きの薬にも注意する

  • 約8週間を目安に続ける

  • 二次感染なども同時に治療する

  • 痒みが改善しても、それだけで確定しない

  • 元の食事を戻す食物負荷試験で確認する

ことです。

除去食試験は、

「フードを変えてみる」ことではありません。

食事を使って原因を調べる、ひとつの診断検査です。

そして成功させるために一番大切なのは、

最新のフードでも、

高価なフードでもなく、

家族みんなでルールを守ること。

それが、食物アレルギーを正しく診断する一番の近道です。


参考文献

  1. Miller J, Simpson A, Bloom P, et al. 2023 AAHA Management of Allergic Skin Diseases in Dogs and Cats Guidelines. J Am Anim Hosp Assoc. 2023;59(6):255–284. doi:10.5326/JAAHA-MS-7396.

  2. Olivry T, Mueller RS, Prélaud P. Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (1): duration of elimination diets. BMC Vet Res. 2015;11:225. doi:10.1186/s12917-015-0541-3.

  3. Udraite Vovk L, Watson A, Dodds WJ, Klinger CJ, Classen J, Mueller RS. Testing for food-specific antibodies in saliva and blood of food allergic and healthy dogs. Vet J. 2019;245:1–6. doi:10.1016/j.tvjl.2018.12.014.


執筆・監修
難波 信一
獣医師・獣医学博士
マーブル動物医療センター 院長

初回公開:2026年10月7日

※本記事は、犬の食物アレルギーおよび除去食試験について、2023 AAHA Management of Allergic Skin Diseases Guidelinesなどの獣医学文献をもとに、一般の飼い主さん向けに解説しています。食事変更や薬の中止、予防薬の変更は自己判断で行わず、かかりつけの動物病院と相談して進めてください。

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